2013年9月22日日曜日

先生が Vicky を...


高校(1 年生)時代の交換日記から

Ted: 1951 年 12 月 21 日(金)晴れ[つづき]

 二番目の質問としては、昨日 Vicky が答えて、Peanut 先生がその通り取り上げられた説明について「"子午線" の解釈で、"地球の経線"、だったかな(と Jack に確認を求める)といわれましたが」という言葉で始め、反駁をした。「天頂近く子午線を通過する星を観測してこの地点の緯度をできるだけ精密に測定しておく」という文にあるのだから、地球の経線でよいはずがない。「この場合は、天頂と天心、天極ともいいますが、を結ぶ線を延長した天球上の子午線です」と説明して、先生に「なるほど、物理の先生に少し聞いて来なければならないな」といわせることが出来たのは、一昨日、ラジオの "Easy Science" の時間に地図の話を聞いて、この通りのことを覚えていたのが役立ったのだ。
 もう一つは、本文中に「重力偏差計」とあって、注に「重力偏差針」となっているので、「どちらが正しいのですか。または、どちらでもよいのですか」と質問したのだ(注 1)。先生は、注の「重力偏差針」を「重力偏差計」と思って読んでいて、気づかれなかったそうだ。Dan も、「天頂儀」のルビ「ゼネステレコープ」が間違っていることを、zenith telescope という綴りまで述べて指摘した。(注 2)
 社会。YMG 先生がノートの使い方を見て回られたあと、自習となる。隣席で Vicky が、鼻のつまって狭くなった隙間から呼吸する苦しそうな音を出している。それが耳障りで何も出来ないでいると、時間の終り近くになって、
先生「『白い恐怖』(注 3)見ました?」
Vicky「明日、行くかもしれません。」
先生「行くのなら、一緒に行きませんか。見る前に『キネマ旬報』とか『スクリーンガイド』とかでも読む?」
Vicky「批評、読んでから行きます。たいてい新聞でネ。」
などという会話が始まったから、おやおやと思わなければならなかった。(注 4)
 ぼくの鼻は、どうやら、そこへ紙を当てて、左右一度にそれをしないように注意しながらする動作を、立て続けにしなくてもよくなった。

 おお、複雑。しかし、なんと単純にしか現れないことよ。
引用時の注
  1. 「重力偏差計」が正しい。
  2. いま青空文庫版の寺田寅彦著「小浅間」を見ると、「ゼニステレスコープ」と、正しいルビがついている。当時の教科書は誤植がずいぶん多かったのである。
  3. 1945 年に公開されたアルフレッド・ヒッチコック監督によるアメリカ映画。記憶喪失を取り扱ったサイコスリラーで、イングリッド・バーグマンの絶頂期の作品といわれる。日本公開は 1951 年 11 月。
  4. 風邪を引いているらしい Vicky が、明日映画に行くかもしれないといったのは、「おやおや」の対象の一つだが、それ以上の「おやおや」は、先生が女生徒を映画に誘ったということである。YMG 先生の亡きいま白状すれば、私の心の片隅では「こん畜生!」という思いもなかったとはいえない。

0 件のコメント:

コメントを投稿